認知症になると、日常の様々なことに制限が発生します。
代表的なもので言うと、不動産の売却ができなくなる可能性があります。
司法書士としても、意思確認をする場面、認知症の気がある方は特に気を使って意思確認をしています。
他にも施設の入所契約ができなくなるかもしれません。
預金が引き出せなくなる金融機関が発生します。
株式・有価証券の処分ができなくなります。
こういった不都合が色々出てくるのです。
この対策として、「成年後見制度」が存在します。
成年後見制度を利用し、管轄の家庭裁判所から成年後見人が選任されることにより、上記のような不都合を解消することが可能です。
ただ、あくまで現行の成年後見制度は「対処療法」でしかありません。
不都合が出たから仕方なく選任するというイメージが近いのです。
ただ、成年後見制度では実現できない問題があります。
それは「遺言」に関する問題です。
遺言、最後の意思表現と言えるかもしれません。
自分が死んだときに残っている財産をどう承継していくのかを示したり、時には家族への最後の気持ちを書き遺すことも多いです。
遺言の中で気持ちの部分については当然、どんな状態でも書き遺すことができます。
ただ、承継方法についてはこうはいきません。
遺言の作成は、「法律行為」です。
この法律行為には、意思能力が必要なのです。
意思能力、何のことでしょうか。
民法上では「自己の行為の結果を弁識するに足りる能力」と規定されています。
要するに、「自分がした契約等の結果どうなるのかを認識できるか」ということになります。
例えば、認知症の方が、施設の入所契約をする場合。
契約締結後に「なんで家から出ないといけないの??」となってしまうと、意思能力が不十分ということになるでしょう。
しかし、預金通帳から現金を引き出した結果お金が無くなる。この程度の理解であれば、多くの方に残っているでしょう。
そうです、この意思能力というのは、事案ごとに足りているか不十分かが判断されるのです。
では、遺言の作成はどうでしょうか。
「長男に全ての財産を相続させる」という単純な内容を作りたいとしましょう。
自分の財産が全て長男に行く、これは理解できるかもしれません。
ただ、この遺言を作れば、長女はどうなるか。次男の生活はどうなるか。
ここまで理解できているかというとどうでしょう。
こうなると、最後にうまくプレゼンした人に有利な遺言を作ってしまうということもあり得るのです。
これでは遺言作成に必要な意思能力があるとは言えないでしょう。
あくまで自分の財産を残した結果、相続人がどうなるのか。ここまでは理解してほしいと思います。
この辺り、より詳しい話も引き続きしていこうと思います。