・財産目録をなぜ作るのか
一般の方が相続手続きをする際はきちんとした財産目録を作成しないこともあるかと思います。しかし、財産目録は遺産承継業務において、重要な意味を持つ書類です。ここでは財産目録がどのような役割を果たすのかをご説明していきます。
まず財産目録は、遺産承継における手続きの方法を決める参考資料としての役割を持ちます。どういうことかというと、そもそも相続手続きはその承継方法により、三つの方法に分けられます。
その三つは、単純承認・限定承認・相続放棄の三つです。
詳しい手続きの違いについては後述しますが、大雑把に言うならば、「被相続人の財産を全部そのまま相続する」のか「マイナスを清算したうえでプラスがあれば相続する」のか「相続しない」のかを選択します。
その選択肢を決定する上での参考資料として財産目録が力を発揮します。財産目録の書式は様々ですが、目録にはプラスの財産だけではなく、負の財産つまり債務も表示されるのが通常です。
財産目録が正しく作成されていれば、「亡くなった母の家は相続したいと思ったけど、借金が予想より多く残っていたので、相続放棄をした方が良さそうだ。」あるいは「父が事業をしており、借金が多くあるのは分かっていたので相続放棄をしようと考えていたが、自分の知らない不動産があるのを知り、相続した方がいいと判断した。」など、財産目録に基づき手続きを選択することで、後に予想外の出来事が起こることを防ぐことができます。これが財産目録の持つ第一の役割です。
第二の役割は、遺産分割協議をスムーズに行う役割です。遺産分割協議書の作成のページでもお話ししましたが、遺産分割協議では相続人全員の意思決定が必要となります。しかし、被相続人の財産の全体像がすべての相続人にはっきりわかっている状況でなければ、まとまるものもまとまらない状況になってしまいます。
例えば、「家と土地は長男の私が、預金は次男に、株券は長女に分けようと思うんだけど、どうかな?」と長男が提案しても、それぞれの価値がどれほどか分からないと話し合う段階にもならないのです。しかし、書式を整えた、財産目録において不動産・株券の評価額が表示されていれば、「預金の額が他より少し少ないけど、不動産と株式にはリスクもあるし、僕はそれでいいよ。」と話がまとまるかもしれません。こういった、遺産分割協議をスムーズにする役割が財産目録の第二の役割です。
第三の役割は、相続財産の変化に柔軟に対応する役割です。遺産承継業務における財産目録は、基本的には遺産分割協議の時を基準に作成します。この作成時期がポイントで、被相続人の死亡時ではありません。遺産分割協議の時を基準とすることで、被相続人の死亡~遺産分割協議までの間の財産の変化を踏まえた遺産分割協議を行うことができます。
例えば、相続人の一人が被相続人の死亡後、銀行口座が凍結されるまでの間に勝手に預金を引き出したり、火災で不動産が消失してしまった。ということが起こった場合、前者のケースなら、相続人全員の同意により預金の持ち出した分を本来の相続分から相殺したり、後者であれば、火災保険金を遺産分割協議の内容に含めたりすることで柔軟に遺産承継を行うことができます。
このように、財産目録を正しい書式で作成することは多くのメリットがあります。当職が業務にあたる際は、以上の内容に加え、葬儀費用・承継不動産の固定資産税等の管理費、その他細かい要素も踏まえ、より意思決定がスムーズに行えるような財産目録を作成していきます。