神戸新聞のネットニュースに面白い記事が載っているのを見つけました。
政府が10月19日、確定申告や保険料控除などの税務手続きにて、押印を原則廃止する検討に入ったそうです。
前々から、河野行政改革大臣により、大半のハンコを廃止しようとする動きが報じられていました。
実際、何の意味のハンコかもわからないハンコが多いのは事実です。
私たち、司法書士の業界にもハンコが要求される場面は多くあります。
その最たるものが「不動産決済」です。
各種書類への署名・押印を買主様、売主様に求めます。
取引の種類にも拠りますが、大体2~5通ぐらいは書類への署名押印を求められるのではないでしょうか。
しかし、あの署名押印は、どれもが同価値ではないのです。
一般的な不動産決済では、売主様に以下のような書類への押印を求めます。
1、住所変更登記に関する委任状
2、担保抹消登記に関する委任状
3、所有権移転の登記原因証明情報
4、所有権移転登記に関する委任状
以上のような書類へご署名押印をいただきます。
もし、最近、不動産を売ったという方がおられたら、何となく覚えているかもしれません。
しかし、それぞれの書類の内容まで覚えている方は少ないのではないでしょうか。(司法書士としても、覚えておいていただけるように説明しなければいけませんが・・・)
さて、この4つの書類の詳しい説明はしませんが、この書類の中で、一つだけ実印での押印が必須のものがあります。
それは、4の所有権移転登記に関する委任状です。
厳密にいえば、この所有権移転に関する委任状以外は認印でも手続きが可能なのです。(実務上はわざわざ印鑑を変えることはしませんが)
なぜ、同じ売主から貰う書類なのにこのような違いがあるのでしょう。
その答えは、登記権利者・登記義務者という考え方が関わっています。
登記というものは、基本的に得する側と損する側の二者による共同申請により行われます。
例えば、担保の抹消においては、担保を失う金融機関が損をする登記義務者となります。
反対に、担保が消えることにより不動産の価値が上がりますので、得をする所有者が登記権利者となります。
複雑な登記では損得の考え方では及ばないことがあるものの、基本的にはこのように考えることで振り分けをすることができます。
一般の世界で考えれば分かりやすいですが、得をする方は進んで手続きに参加しますが、損をする方は必ずしもそうとは限りません。
そこで、不動産登記の世界では、「一番大切権利を持っている、所有者が損をする内容の委任」が偽造ではないか丁寧に判断することにしたのです。
先ほどの所有権移転に関する委任状を考えてみると、損をするのは不動産を失う売主が登記義務者となります。
また当然、売主は不動産の所有者です。
つまり「不動産の所有者が不動産を失う行為を委任している」ということになります。
そこで、実印の押印を所有者に求め、印鑑証明書と照合し、丁寧にチェックをしていくのです。
反対にこの所有権移転に関する委任状は買主にも貰いますが、今までの考え方から行くと、買主は認印でいいはずです。
その通り。買主の委任状は認印でもOKということになります。
と、話が大きく変わっていますが、最初のニュースからなぜこのような話になったかというと。
ハンコ文化がなくなった時、実印・印鑑証明書はどのように変わるのかを疑問に思ったからです。
当然、河野大臣が言う、9割以上のハンコが削減されても残るハンコがこの実印だと思いますが、いずれはそれもどうなるか分かりません。
電子認証・AIなどの技術を使って、不動産登記の世界が大きく変わる日もそう遠くはないのかなと感じたニュースでした。