現在、多くの司法書士は登記申請をオンラインで行っております。
当然ですが、最初からオンラインの方式があったわけではなく、情報通信技術の発展などが理由で、平成17年ごろからオンライン申請が開始されました。
今となっては、管轄の法務局に申請に行く必要がなくなり、一部の登記を除いては全国各地どこの法務局にも即時に登記申請を行うことができます。
ただ、このオンライン申請、開始されてすぐに今のように普及したわけではありませんでした。
平成17年に制度が開始されてもほぼ利用されることがなかったそうです。
その理由は、公的個人認証の普及率が著しく低かったことが原因です。
具体的には、個人のお客様で「電子証明書」を発行できる人がほとんどいなかったのです。(これは今もそうですが)
平成17年当時、登記のオンライン申請は、個人の登記申請人が電子証明書を発行できることが必須でした。
電子証明書を発行できる個人がいなかった以上、登記のオンライン化も全く進まなかったというのが当時の実情でした。
潮目が変わったのは、平成20年。
オンライン申請に「特例方式」という方式が登場したことでオンライン申請は大きな転換点を迎えました。
特例方式とは、登記申請はオンラインデータで行うものの、添付書類である印鑑証明書・権利証などは郵送や持参などの方式を認めるというものでした。
これにより、電子証明書がなくとも印鑑証明書などの従来の本人確認でもって登記申請が可能となったのです。
これにより、事実上、オンライン申請を行えない登記は数を減らしますが、それでもすぐにオンライン申請が普及したわけではありません。
その理由は様々ですが、その一つに「空(から)申請の防止」があります。
登記は、申請日と申請番号が非常に重要であり、登記を申請した順番により登記順位が決定します。
そこで、オンライン申請を悪用し、実際の取引前に登記申請だけ行い、添付書類は後から追完することが技術的に可能になってしまったのです。
それを防止するために、オンライン申請の際は「登記原因証明情報」と呼ばれる、登記原因が起こったことを証する書面だけはオンラインデータで先に送ることを要求したのです。
そして平成20年当時のオンライン申請の審査は非常に厳しいものでした。
軽微な記入漏れであっても、空登記を防止するために取下げを求められるという事案が起こってしまったのです。
ミスがなければいいじゃないかという声も聞こえてきそうですが、オンライン申請でなく、書面で申請した時よりも当時は審査が厳しくなっていたようです。
そうなると、少しでもリスクを回避するためにはオンライン申請をしない方が良いと考える司法書士・金融機関が出てきたのです。
そして現在も、特にベテランの先生は「オンラインは融通が利かないから危険」と考え、書面で申請をしているそうです。
このように、「空登記の防止」という理由のため、審査が厳しくなりすぎたのがオンライン普及の足かせとなっていました。
現在は、書面であってもオンラインであっても同じような審査がされるため、多くの司法書士はオンラインを用いているということです。
このように、司法書士業界の歴史を調べてみるのも面白いものです。
これからは、オンライン申請も次のステージに突入するはずですので、しっかりと研鑽に励みたいと思います。